海外移住:カナダの公的年金システム

カナダ

昨日、カナダの年金受給申請時に困らないために、「古いパスポートを捨てないで」という記事をアップしました。この記事では、まずカナダの公的年金システムについて簡単に概要をご紹介します。そのうえで、ソーシャルワーカーとしての視点から、「老後、カナダでは、公的年金のみで生活できるのか?公的年金のみで、将来必要となったら介護施設に入居できるのか?」という点について検証してみたいと思います。カナダに移住しているが将来が不安な方、将来海外移住を考えている方はぜひ読んでみてください。

ころっち。カナダ、オンタリオ州在住。現地の大学院をでて、英語onlyの環境で15年以上、医療ソーシャルワーカーとして働いています。

カナダの公的年金は、大きく分けて二つあります。Canada Pension Plan (CPP) と、Old Age Securityです。ケベック州では、CPPの代わりにQuebec Pension Plan(QPP)に加入することになっていますが、CPPとQPPは統合して受け取ることができます。筆者はオンタリオ在住なので、CPPについてご紹介します。ちなみに、年金連邦政府(Government of Canada )の管轄になり、申し込み・問い合わせ先はService Canadaになります。

Canada Pension Plan (CPP)

一つはCanada Pension Plan (CPP)。これは、給与または自営業の収入から決まった割合を保険料として納入し、将来退職後に個人の納入料・期間に応じた額を月々受け取るものです。これは、就労経験・保険料納入履歴がないと、受給資格は発生しません。2021年1月現在で、65歳の新規受給者が受け取れる最高額は月額$1,203.7、平均額は2020年10月時で$614.21となっています。ちなみに、少額かつ受給資格審査が厳しいですが、CPPには障がい者年金もあります。

CPPは、給与をもらっている人は給与から天引きされるため、就労中の人は強制的に保険料を納入する仕組みになっています。保険料は所得によって違いますが、年間で納められる上限が一律に決まっています。また、自営業の場合は、年末の確定申告で保険料を納めることになります。

CPPには、遺族年金制度も含まれており、寡婦・寡夫と18歳以下の子(フルタイムの学生であれば25歳以下)が受給対象となります。

CPPは、60歳から受給可能ですが、一番平均的なのは65歳での受給開始でしょう。65歳受給開始の場合にくらべ、60歳の場合は36%受給額が低く抑えられ、逆に70歳まで据え置くと42%の増額となります。

CPP は日本の厚生年金に近いイメージでしょう。

Old Age Security (OAS)

もう一つは、Old Age Security(OAS)です。この年金は、カナダ市民権保持者または永住者であり、かつ18歳に達してからのカナダ国内での居住歴が最低10年あることが受給資格となっています(ただし、日本とカナダの間には、The Agreement on Social Security between Canada and Japanというものがありますので、もしOASの最低居住年数に満たない場合は、日本での年金制度加入年数を付加することによって、受給資格を得ることも可能とされています)。就労経験の有無は資格に関係ありません。また、受給できる金額も、居住期間の長さによって変わってきます。満額を受けるには居住歴40年が必要ですが、居住年数が10年から40年の間の場合は、「満額x年数x40分の1」で金額が計算されます。2021年1月現在では、OASの満額は$615.37となっています。毎年、物価の上昇にともなうベースアップがあります。OASは現在65歳が受給対象となっていますが、2023年4月1日から、受給開始の年齢が67歳に引き上げられることになっています。もし他に所得が$129,075以上ある場合には、65歳以上であってもOASを受け取ることはできません。

Guaranteed Income Supplement (GIS)

また、OASには、Guaranteed Income Supplement (GIS)という、補完的な給付金制度もあります。これは、全員に支給されるものではなく、低所得の年金受給者の身に、所得に応じた金額が支給されるというものです。たとえば独身のOAS受給者が他に何の年金や所得もない場合には、最高額で月額$919.12(2021年1月現在)受け取ることができます。(OAS が満額でない場合は、GIS の最高額はそれに応じてもう少し高くなります)。GIS額の算出には、marital status および配偶者(Common-lawすなわち内縁の場合も、ここではspouseと同じ扱いになります)の有無、配偶者の年齢(特に、配偶者が65歳以下または60歳以下である場合)などいろんな要素が絡んできます。

Allowance

OAS受給資格が与えられる最低年齢は65歳ですが、配偶者がOASおよびGIS受給者である場合にかぎり、60歳から64歳までのカナダ市民権・永住権保持者は、allowance (spousal allowance)を受け取れる場合があります。2021年1月の最高額は月額で$1,168.65です。

Allowance for the Survivor

生存していればOAS受給資格があった者の寡夫・寡婦が60歳―64歳の場合も、本人の収入によってはAllowance for the Survivorを受け取れる場合があります。2021年1月の最高額は月額で$1,393.08です。

カナダで、公的年金のみでリタイアするのは難しい?ソーシャルワーカー的観点からの考察

今年65歳で年金を受給し始める場合、CPP の最高額$1,203.7とOAS満額$615.37で、$1819.07です。筆者は移住したのがちょうど30歳だったので、公的年金だけでは65歳ではこの額には達しません。かなり乱暴ですが、公的年金のみの受給の場合、独身の場合だと、CPPの有無にかかわらず(CPPがなければGIS が補填するので)、平均で月額合計$1500前後とみてよいかと思います。夫婦の場合、二人ともOAS+CPPのみ(GISなし)を受け取っている場合はこの2倍の額になりますが、逆に二人ともOASとGISだけを受け取っている場合は月額二人分合わせておよそ$1800-2000程度に抑えられてしまいます。

現在のカナダは、日本に比べ、物価や生活維持にかかる費用が比較的高額です。ことに、自動車保険、光熱費、通信費、外食は、近年かなり割高です。また特に都市部では、住居費が年々高騰しています。一人暮らしで、1500ドルで生活するのはかなり困難だといえます。ローンのない持ち家でも、地価の高騰に伴い住民税も高額になってきていますし、トロント市内で家賃1500ドル以下のアパートを見つけるのは至難の業でしょう。

RRSP、RIIF (登録個人年金)からの給付金は、税制上収入になりますので、OAS (GIS やallowance を含む)の受給資格・金額を計算する際にも収入として扱われます。CPP、組合または企業年金や資産からの収入などが一定以上あり、もともとGIS受給資格が見込めない場合には、RRSP は就業中の税金対策として効果的と言っていいと思います。ですが、資産も企業年金もなく、低額のCPPを含む公的年金のみ、またはOAS のみが退職後の収入源となることが予想される場合には、RRSP はあまり意味がありません。少額のRRSP があるためにGISを受け取れない、またはGIS額が減額され、結局はRRSPのない人と同じ収入レベル(月額$1500程度)に落ち着いてしまうことになります。

オンタリオにて、介護施設・特養老人ホーム(long term care facility)の入居費用は、現在basic (相部屋)で月額$1891.31、Semi-private (2人部屋)で$2280.04、private(個室)で$2701.61となっています。公的年金のみでは、最高額でもbasicの費用を下回っていることにお気づきでしょうか?介護施設入居の際、本人の所得がbasicの料金より低い場合は、政府の補助を受けられることになっているのですが、この補助はbasic のみに適用されます。現在、long term care facilityは入居待ちが非常に長くなっていますが、特に人気のあるホームのbasicは通常入居まで何年も待たされます。一方、例外はあるものの、一般的にいってsemi-privateまたはprivateの部屋は、比較的入居待ちが短くなっているところが多いです。もちろん本人の所得が限られていても、子供や親族などが差額を支払う場合はsemiまたはprivateに入居することも可能です。

結論

公的年金だけでカナダで老後をすごすのは、今のところ非常に困難だと言わざるを得ません。持ち家があれば、それを担保に金融機関から融資を受ける(Reverse Mortgage)こともできますが、そうでなければ、子供と同居する、低所得者用の賃貸住宅に応募する(通常何年もの待ちとなります)、など、生活費を減らす工夫が必要でしょう。退職する前に、できだけ貯蓄や投資などで資産を増やす努力をすることが望ましいといえます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました