海外生活:ホームシックは突然やってくる

ソーシャルワーカーという仕事

近年、グローバル化の進展とともに、多くの人々が海外での生活を選ぶことが増えています。新たな環境での仕事、留学、家族との再会など、さまざまな理由から海外移住をする人々が増えている一方で、その中にはホームシックに悩む人も少なくありません。ホームシックは、新たな環境や文化に適応する際に感じる、故郷や家族、友人とのつながりを懐かしく思う気持ちのことを指します。ここでは、海外移住でのホームシックについて考えてみましょう。

お金を貯めて、ビザを取得して、ようやく辿りついた、あこがれの海外。コロナ禍の影響で、1年以上予定を延長して、いよいよ待ちに待った渡航、という方も少なくないのではないでしょうか?

ビザ取得や学校への就学申請、住居の手配など、海外渡航前に乗り越えなければならない壁に直面しているときは、逆に、「早く行きたい」「なんとしても絶対に行くぞ」と、やる気が刺激されますよね。

海外にいったら勉強や仕事をがんばろう!とか、休みにはあちこち旅行に行きたいな、など夢も膨らみます。

ですが、実際に目的地についていざ新生活がはじまってみると、実はかなりの人が「ホームシック」を経験することがわかっています。

ホームシックはどうして起きる?

いつの時代にも、また文化や宗教的背景を問わず、ホームシックは人類共通の経験のようです。古いものでは、旧約聖書やホメロスのオデュッセイアにも故郷をおもって嘆く様子が描かれています。

故郷や長く暮らした土地、慣れ親しんだ人々と離れて暮らすようになる時、多くの人が多少のホームシックを経験するといわれています。特に、異なる文化圏への移住や、長期滞在の場合にホームシックのリスクが高まるとされています。

ホームシックとは?

ホームシックと一言でいっても、その経験や症状は様々です。寂しさ、孤独感、不安、落ち込み、悲しみなどが一般的な症状です。新しい言語や文化に適応することが難しい場合、自身のアイデンティティや所属感を見失うことがあり、それがホームシックを引き起こす要因となることがあります。

また、新たな環境での社会的なつながりの欠如やコミュニケーションの困難さも、ホームシックを助長することがあります。現地の人々との文化的な違いや価値観の違いに戸惑い、自身の居場所を見つけることが難しい場合、ホームシックの感情が高まることがあります。

ホームシックに起因する症状としては、次のようなものが一般的です。

抑うつ気分
不安
イライラ
怒り
他人からの孤立、ひきこもり
集中力の低下
やる気、モチベーションの低下
睡眠障害(寝つきが悪い、または寝すぎる)
頭痛
体の痛み
食欲の増加または減少
胃の不調
エネルギーの低下、疲労感

多くの場合、これらの症状は、時間とともに軽減し、3か月くらいの間に気にならない程度まで改善していきます。ただ、この3か月の間に、これらの症状とどう付き合っていくかによって、うつや不安障害などの精神疾患に発展するリスクが高まることも。また、その他の要因やストレスの存在ーたとえば経済的な不安、サポートがあるかどうか、健康上の問題や過去の精神疾患の有無などーも、リスクファクターといえるでしょう。

ホームシックへの対処法

では、ホームシックになってしまったら、どう対処すればいいのでしょうか?

  1. 自分を責めず、ホームシックになってしまったことを受け入れましょう: 先に述べたように、ホームシックになるというのはごく当たり前のことです。ネガティブになってしまう自分を責めたり、寂しいなどの感情を強く否定する必要はありません。辛いときは、少し休んでもよいのです。もし故郷の家族や友人などが理解的であれば、連絡をとって話を聞いてもらったりするのもよいことです。
  2. ポジティブな発散の方法をみつけよう:自分にとって心地よいこと、アクティビティをみつけてみましょう。近所を散歩する、瞑想する、好きな音楽を聴いたりカフェや公園で読書する、ジムやヨガのクラス、ジョギングやサイクリング、料理、おいしいものを食べる、などなど、自分が楽しい、気持ちよいと感じられること、リラックスできることなら何でもいいのです。
  3. 日本の家族や友人、生活に関する「もの」を手元に置く: 離れているからといって、あなたの大切な人たちや場所、思い出が、なくなってしまったわけではないことを認識しましょう。写真や、大切な人からもらったプレゼントなどを手元におき(transitional object)、楽しい思い出などを思い起こすことも、時には大切です。無理に忘れようとすると、かえって不安が大きくなることもあります。
  4. 趣味や活動の追求: 新たな趣味やアクティビティに取り組むことで、自身の興味を追求し、新たな友人を作る機会を増やすことができます。地域のイベントやグループに参加することで、地元の文化に触れることもできます。ホームシックで、外に出たくない、一人でいたいと感じることもありますが、時には自分をプッシュして、新しい国でいろいろな発見をしてみましょう。
  5. 思い出は、これからも作っていくもの:これまでに作った思い出も大切ですが、あなたはまだまだこれから、たくさんの素敵な思い出を作っていくのです。今を楽しむことによって、今の生活や今の家族、周りの人々も、あなたにとってかけがえのない、新しい思い出になっていくのだということを認識しましょう。
  6. 感謝の意識を持つ: 新しい環境での経験をポジティブに捉え、その土地の良い側面や新たな学びを感謝する意識を持つことが大切です。ホームシックな気持ちに囚われるのではなく、成長の機会と捉えることができれば、気持ちの切り替えが可能です。
  7. 心理的なサポートを受ける: 必要に応じて専門家の心理的なサポートを受けることも検討しましょう。カウンセリングやセラピーを通じて、感情を整理し、適切な対処法を見つける手助けを受けることも、時には必要です。

まとめ

短期留学やワーキングホリデー、海外移住などで、ホームシックを経験する人の割合は非常に多いといわれています。多くは、時間の経過、また新しい環境への適応が進むのに伴って、徐々に緩和されていきます。

ホームシックの症状を軽減し、回復を早めるためのヒントをいくつか紹介しました。まずは、自分を責めず、ホームシックになってしまったこと、それによって気分が沈んだり体調がすぐれなかったりすることを受け入れましょう。ホームシックは、ごく一般的な現象で、多くの場合、自然と改善していくものです。あまり深刻にとらえすぎず、少しでも楽しくリラックスできる気分になれるアクティビティを取り入れ、回復を待ちましょう。

ですが、さまざまな要因により、ホームシックが深刻化したり長期化し、精神疾患に発展したり、仕事や学業、生活に支障をきたすこともあります。重度のホームシックが3か月以上続くような場合は、医師や専門の心理カウンセラー(psychoherapist, social worker など)な度に相談してみましょう。

海外移住でホームシックを克服する過程は、私たちにさまざまな価値やスキルを与えてくれます。適応力や柔軟性、自己肯定感の向上、異なる文化に対する理解力の向上など、ホームシックの経験を通じて得られるものも、実は多くあるのです。

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